転勤や異動など、引っ越しに伴い自宅の売却が必要になるケースがあります。
自宅を売却するにあたって、考えなくてはいけないのは「残っている住宅ローンをどうするか」です。
この記事では、家を売りたいが住宅ローンが残っている場合の、「そもそも売っていいのか」「売却にあたっての条件はあるのか」といった疑問にお答えしていきます。
自宅の売却は、ローンの残債によって取れる方法が異なってきます。ぜひご自身の状況に合わせてポイントを確認してください。
結論!住宅ローンが残っていても家は売れる
住宅ローンを返済中であっても家を売ることは可能です。完済していない状態でも売却できますので、まずその点は安心してください。
しかし、住宅ローンが残っている状態での売却には条件もあります。次項からその条件について紹介していきます。
家の売却には住宅ローンの完済が必要(アンダーローン)
金融機関で住宅ローンを組む際、金融機関は購入する不動産を担保にしてお金を貸しています。担保に設定する権利を抵当権といい、金融機関は抵当権を持っているからこそ、返済が滞った際に不動産を競売にかけることができます。
抵当権は、ローンの完済とともに登記をして外すことになります。
住宅ローンが残っている状態での自宅の売却は可能ですが、売却と同時にローンを完済する必要があります。ローンの完済には、自宅を売却して得たお金を充当しても構いません。
家を売却して得たお金で住宅ローンが完済できる状態をアンダーローンといいます。ローンがアンダー(下回っている)な状態と考えると覚えやすいでしょう。
家を売っても住宅ローンが完済できない場合はどうなる?(オーバーローン)
自宅を売却しても住宅ローンが完済できない状態をオーバーローンといいます。売却と同時にローンが完済できないのなら、売却はできないのが基本ですので、足りない分に関しては貯蓄などの自己資金を充当して完済することになります。
自己資金がなく、自宅を売却してもローンが残ってしまう場合に自宅を売却するには以下の2つの方法があります。
住み替えローンを組む
住み替えローンとは、今の自宅を売却し、新たに家を購入することを前提とした住宅ローンのことです。
今の自宅を購入するために住宅ローンを組んだ金融機関とは別のところで、「今の自宅を売って残るローン+新しい家の購入資金」という新たなローンを組むものです。
住み替えローンは、いわば新たに住宅ローンを組むものなので、新しい家の価格によっては借り入れる金額が大きくなりますし、自身の年齢によっては返済期間も短くなるため、審査が厳しくなります。
また、新しい家を購入することを前提としたローンなので、引っ越し先が賃貸住宅の場合には利用できません。実質的には、今まで以上のローンを抱えることになるため、利用する際は十分に検討する必要があるでしょう。
任意売却を行う
任意売却とは、現在住宅ローンを組んでいる金融機関に許可をもらって、オーバーローンの家を売却するものです。
売却に伴い抵当権は抹消できますが、ローンは残るので、返済を続ける必要はあります。しかし、残債を大きく減らせて、利息も少なくなるので、その後の生活への影響を軽減できます。
任意売却と似たものに競売があります。しかし、競売は裁判所での入札形式となるため、売却価格は相場より何割も低くなる点にデメリットがあります。
任意売却は通常の不動産売却と同様に、不動産会社に仲介をしてもらって一般市場に売り出すため、相場に応じた金額での売却が期待できます。
任意売却をするには金融機関の許可が必要ですが、競売よりも高い金額で売却できる点のメリットは大きく、オーバーローンで自己資金もない状態ならば、任意売却を狙うのが基本となるでしょう。
しかし、任意売却してもローンがなくなるわけではない点や、残ったローンを返済できなくて自己破産しても連帯保証人に請求がいく点には注意が必要です。
任意売却はローンの滞納が前提の話となるため、信用情報に傷がつき、新たにローンを組んだり、クレジットカードを作ったりすることが難しくなる点にも留意してください。
家を売る前にローンが完済できるかをチェック
家を売ることを決めたのなら、まずは自分がアンダーローンなのかオーバーローンなのかを確認する必要があります。確認は以下のような流れで行っていきましょう。
ローン残高を確認する
まず、いくらローンが残っているのかを確認します。詳しいローン残高は住宅ローンを組んだ金融機関で確認できます。
いくらで売れるか調査する
住宅ローンの残高を確認したら、次は「自宅がいくらで売れるか」を調査していきます。自宅の価値は、不動産会社に査定をしてもらって確認します。
しかし、不動産会社による査定金額にはバラつきがありますし、査定金額でそのまま売却できるとも限らないので、必ず複数の不動産会社に査定してもらうようにしてください。
また、悪質な不動産会社の場合は、自社で仲介して売却してもらうことを狙って、相場以上の高い価格で査定することもあります。複数の不動産会社に査定依頼をしてもらった中で、不自然に高い価格のものがあれば、その会社に仲介を依頼するのは避けた方が無難だといえます。
また、相場を知ることで自宅がいくらで売れるかの予想をすることもできます。
自身で相場を知る方法としては、国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営・管理している不動産流通標準情報システムの「レインズマーケットインフォメーション」を活用するのがおすすめです。
レインズマーケットインフォメーションでは、地域や沿線、駅からの距離、間取、土地面積、築年数などの条件をもとに、実際に売買が行われた物件の価格(成約価格)の検索が可能です。
自宅と似た条件で検索すれば、大体の相場が把握できます。査定価格ではなく、最終的な売却価格が分かる点は大きく参考にできるでしょう。
参考:レインズマーケットインフォメーション(不動産流通機構)
売却にかかる諸費用を忘れずに
査定金額から、自身がアンダーローンになる可能性が高くてもそれだけ安心はできません。なぜなら、不動産売却にはさまざまな費用が発生するからです。主な費用としては以下の3つがあります。
不動産会社へ支払う仲介手数料
不動産会社へ支払う仲介手数料は「売却価格×3%+6万円+消費税」が上限と定められています。上限とはいえ、ほとんどの不動産会社ではこの金額が仲介手数料として設定されています。
たとえば1,000万円で自宅を売却した場合は、消費税を合わせて39万6千円が仲介手数料となります。
仲介手数料は、不動産会社に直接買い取ってもらう「不動産買取」の場合は発生しません。
司法書士への依頼費
住宅ローンの完済とともに、自宅は担保から外され、抵当権も抹消します。
しかし、登記上の抵当権は自動的には抹消されず、抹消するためには法務局での手続きが必要です。この手続きは自分でも行えますが、書類の準備などの手間があります。
手続きを司法書士に依頼すれば手間はかからなくなるものの、依頼費用が数万円ほどかかることになります。
住宅ローンの一括返済手数料
自宅を売却して住宅ローンを完済する場合、本来よりも短い期間でローンを完済することになります。金融機関では期間を繰り上げての返済には手数料を設けてあり、住宅ローンの完済時には手数料が発生します。
この際の手数料は窓口での支払いだと数万円、インターネットバンキングだと無料で収まるケースが一般的です。一括返済手数料は、住宅ローンの残債と併せて確認しておくとよいでしょう。
譲渡所得税
自宅を売却して利益が出れば、その金額に応じて所得税と住民税が発生します。これらを合わせて譲渡所得税と呼びます。譲渡所得税は自宅を売却した瞬間に発生するものではありませんが、確定申告をし、その後決められた税額を支払うことになります。
譲渡所得税は利益に応じて発生するものなので、オーバーローンであれば利益は発生しないため、譲渡所得税も発生しません。
家を売る際に意識したい税金問題
アンダーローンであれば自宅を売却して得た利益に応じて譲渡所得税が発生します。自宅の売却においては、税金を安くする特例が設けられています。また、オーバーローンの場合にも使える特例もありますので、確認しておいてください
オーバーローンで使える税金特例
オーバーローンの場合には、不動産売却による税金は発生しません。しかし、不動産売却によって損失が残っても、自身の事業で得た利益(事業所得)や会社員として得る給与(給与所得)にはそれぞれ所得税や住民税がかかります。
しかし、一定の要件を満たす場合、不動産での損失を事業所得や給与所得に充当する損益通算が可能になり、事業所得や給与所得に対してかけられる税金が抑えられる特例が受けられます。
この特例を「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」といいます。
損益通算を行っても残ってしまう損失の金額については、売却した年の翌年以後3年間にわたり繰り越して差し引くことができます(合計4年間)。
たとえば自宅を売却しても500万円の住宅ローンが残る場合、自身の年間の給与が400万円なら、その年の給与に対する所得税や住民税はかからないことになります。会社員であれば、年末調整で、後から返ってきますし、自営業なら確定申告をすることによって税金が発生しなくなります。
また、翌年も給与が400万円であるならば、損益通算後に残った100万円については、翌年分として差し引けるので、実質300万円の給与をもらったときの税金だけがかかることになり、支払う税金が減らせます。
参考ページ:「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」(国税庁)
アンダーローンで使える税金特例
自宅を売却して手元に残るお金のことを譲渡所得といいます。アンダーローンの場合は譲渡所得から最高3,000万円まで差し引くことができる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が適用できます。
つまり、自宅を売っても3,000万円までの利益については税金がかからない、ということです。
参考ページ:「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」(国税庁)
また、「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」も同時に適用できます。
これは10年を超えて所有していたマイホームを売却したときに受けられる特例です。譲渡所得のうち6,000万円以下の部分は通常の税率よりも低い税率で計算でき、支払う税金が抑えられます。
参考ページ:「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」(国税庁)
アンダーローンで家を売却するときの「売り先行」と「買い先行」
住宅ローンが残った状態で家を売るにあたっては、「先に今の自宅を売ってから新しい家を買う」か、「先に新しい家を買ってから今の自宅を売る」という2つの方法があり、前者を「売り先行」、後者を「買い先行」といいます。
オーバーローンでも売り先行や買い先行は可能です。しかし、オーバーローン時には、自己資金を充当すればローンが完済できるという状態でないならば、オーバーローン時にさらにローンを組むことになる買い先行はおすすめできません。
実質的にはオーバーローンなら売り先行しかないでしょう。また、売り先行であっても新しく家を買うことを前提とせず、賃貸住宅も選択肢に入れての引っ越しを検討することをおすすめします。
ここから、アンダーローン時の売り先行と買い先行について、その特徴や注意点を紹介します。
売り先行の特徴
売り先行では、今まで通り自宅に住みながら売却活動をすることになります。
一時的に賃貸住宅を借りて売却活動をすることも可能ですが、住宅ローンの返済に加えて家賃も発生すれば、月々の負担が大きくなるので、おすすめはできません。
売り先行のメリットは、買い手がつくまでの期間に余裕が持てる点です。
納得のいく金額での売却や、購入希望者の選定のためにじっくりと時間をかけることができます。その間に、新たな家の資金計画を立てることもできます。今の生活を保ったまま売却活動ができるので、新たな金銭的負担が発生しない点も大きなメリットだといえます。
買い先行の特徴
買い先行は、自分が欲しい物件を自分のタイミングで購入できるため、買い逃しがない点が最大のメリットです。
また、新しく購入した家に引っ越せば、古い家は空き家にでき、内覧や引き渡しもスムーズに行えます。しかし、古い家が売れるまでは、既存の住宅ローンに加えて、新しい家のための住宅ローンの返済も必要な二重ローンの状態になり、金銭的負担が大きくなる点がデメリットです。
いくらアンダーローンでも、買い手が見つかるまでは住宅ローンは完済できず、これまで通り月々の返済が発生します。しっかりと貯蓄があり、二重ローンの生活に一定期間耐えられる状態でなければ、買い先行は厳しいでしょう。
まとめ
住宅ローンが残っている家であっても、売却は可能です。
また、税制上の優遇措置も設けられていますので、支払う税金を抑えることもできます。住宅ローンが残る家の売却の第一歩は、アンダーローンかオーバーローンかを知ること。まずは、金融機関で住宅ローンの残債を確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。